研究内容
排水の生化学的、新窒素除去反応―Anammoxの解明
1995年、オランダのデルフト大学の研究グループが、酸素を必要とせず、アンモニア(NH4+)と亜硝酸(NO2-)から脱窒素反応(嫌気性アンモニア酸化、Anammox反応)を行う化学独立栄養細菌を発見しました。
Anammox反応: NH4+ + NO2- → N2
それ以降、世界中でAnammox細菌の集積が試みられ、日本でも熊本大学大学院の古川教授がAnammox細菌の集積に成功しました。Anammox反応を利用した排水処理は、従来型の硝化・脱窒法に比べ低コストで排水中の窒素(アンモニア態窒素)除去が可能なため、経済的な窒素除去プロセスへの応用が活発に行われています。
Anammox細菌は金属含有タンパク質、特にヘムタンパク質を豊富に含んでおり(図1、図2)、Anammox反応にもこれらのタンパク質が関わっていると考えられています。


(青色、赤色のピークがそれぞれタンパク質、ヘムタンパク質を表す。
KSU-1株のタンパク質の主要ピークのほとんどがヘムタンパク質であることが分かる)
当研究室では、Planctomycete KSU-1株のAnammox反応に関わる以下の金属含有タンパク質について、生化学的性質の解析、立体構造の解析を行っており、Anammox反応機構の全容解明を目指しています。
- NIR(nitrite reductase)
Anammox反応の基質の一つである亜硝酸(NO2-)を一酸化窒素(NO)へ還元する。KSU-1株では、他のAnammox細菌の鉄型NIRとは異なり、銅型のNIRが働いていることを明らかにしました(Hira et al., 2012)。 - HZS(hydrazine synthase)
Anammox反応の基質の一つであるアンモニア(NH4+)とNOからヒドラジン(N2H4)を合成する。 - NaxLS(heterodimeric cytochrome c complex)
KSU-1株に豊富に含まれ、また還元されにくい特徴を持つAnammox細菌に特異的なタンパク質であることを明らかにしました(Ukita et al., 2010)(図3)。

- HZO(hydrazine oxidizing enzyme)
Anammox反応の最終段階のN2H4から窒素ガス(N2)への脱窒を触媒する。我々が世界で初めて単離・精製し、その遺伝子配列を明らかにしました(Shimamura et al., 2007)。 - HAO(hydroxylamine oxidoreductase)
HZOと同様にN2H4からN2への脱窒を触媒すると考えられている(図4)。

さらに、Anammox細菌が嫌気性細菌でありながら、溶存酸素除去を行っていない排水でもAnammoxによる窒素除去処理が阻害されないことが多いことから、比較的強い酸素耐性機構を持っていると予想し、その解明も行っています。